もっとそばにいたいの 【ぎじプリ企画】
すると腕を引かれて優しく緩やかに彼の腕に包まれた。

突然のことに身体に力が入ってしまったけど、そのままゆっくりと目の前の胸元に顔を寄せた。

彼から感じる爽やかな香りが心地よく感じる。

彼の背中に両手をまわすと、私を抱いた彼の手の力がわずかに強くなった。

そして前髪越しのおでこに優しいキスが落ちてきた。

「あんまり心配させるなよ....」

ささやくような甘い声が、聞き分けのない私を言い聞かせた。

「ごめんなさい...」

素直に謝ると、頭のてっぺんを優しく撫でてくれた。

こんな風にされたらまた帰れなくなっちゃうよ....これだからツンデレは。

私が複雑な気持ちでいると、彼は抱きしめていた腕をほどいた。

「今日はもう帰れ」

その言葉にそっと顔を上げて、彼の瞳を見つめる。

まだそばにいたい気持ちをほんの少し要求する。

「一杯だけお茶に付き合ってください」

「分かった」

彼の答えに納得して頷いた。

「じゃあ淹れてきます」

そう言って給湯室で自分のカップにココアを入れてお湯を注ぐ。

そして彼のカップも持って自分のデスクまで行って引き出しを開ける。

そこには彼の為に買い置きしたミネラルウオーターがある。

キャップを開けてカップに注いで彼に手渡すと、「ありがとう」と言って受け取り飲み始めた。

「美味しいですか?」

私が聞くと、「ああ」と頷いた。

「清掃のおばちゃんがくれる水道水と違って美味しいな」

そう苦笑しながら見せる眼差しが何だか可愛らしい。

そんな彼を見ていると、髪型が少しだけ崩れている気がした。

「あれ?髪の毛切りました?」

私が聞くと、彼はちょっと嫌な表情を見せた。

「ああ・・今日清掃のおばちゃんが水くれに来た時に、枯れていたてっぺんをむしっていったんだよ。全く容赦ねえよな、ハサミで切ってくれればいいのに」

そう言って頭をさする姿も可愛い。

清掃員さんたら水やりのついでにプチっとやったのね。

きっとそれもおばちゃんの優しさなんだろうけど、彼にはちょっと痛かったよね。

クスクス笑っていると、軽く睨まれてしまった。

「ほら、早く飲んで今日は帰れ」

急かされながらココアを飲んで帰り支度をした。

「それじゃあ....お疲れ様です」

名残惜しくて彼を見つめると、涼しい顔をして「お疲れ」と返された。

諦めて彼に背を向けてフロアを出ようとした時、大好きな低くて優しい声が聞こえた。

「家に着いたら電話しろ」

「...えっ?」

驚いて振り向くと、いつものように腕を組んで壁に寄りかかっている。

「ちゃんと家に着くまで俺だって心配なんだよ」

その言葉に胸が熱くなる。

ほらまたそんなこと言ってくれるから、私は残業を繰り返してしまうんだよ。

嬉しさに悔しさがほんの少しだけ混ざる。

「分かりました」

小さな声で返事をして上目遣いで彼を見ると、クスッと笑ってそのまま口元に笑みを浮かべて見つめられた。

「お疲れ様、気を付けて帰れよ」

「はい、お疲れ様でした」

最後は私も笑みを見せてオフィスを後にした。 【完】



***彼=観葉植物を擬人化しました***





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