おいしい時間 しあわせのカタチ
根岸くんは運転席のドアに手をあてたまま、窓に映る自分自身を見るように、
「大上、あいつ……、もしかすると、結婚して、いきなり子持ちになるかもしれないって」
「……」
帰り際に呼び止めていたのはそのことだろうか。
「さっきの美砂って女の人、明日明日保育園に入る息子がいるんだそうです」
「――そう。もう、だいぶ具体的に決まってる話なの、それ?」
「そう、ではないみたいです。でも大上は、そうなっても悪くないって思ってることは思ってるらしくて」
「でも迷ってるのね。当然か」
結婚だけでも一大事なのに、そのうえいきなり子連れとくれば、大上さんの親御さんだってもしかするといい顔をしないだろう。
「……大上、あいつ、昔からそういうとこがあって。見た目に似合わず向こう見ずっていうか、ときどきバカみたいに単純で……、だからほら、その証拠にそういうやつしか寄りついてこないでしょう? 俺、中学のときからあいつのそういうとこがほんと嫌いで、嫌いで……ッ。いつかこういうことになると思ってたんだ」
根岸くんは呻きながら髪をかきあげる。
「根岸くんは、どう答えたの?」
「……もっとよく考えてみたらどうだって、言いました。だって俺わかんないっすもん。奥さんができた途端、いきなり自分が父親になるってこともそうだけど、それが自分の子供じゃないっていうのもあんまり現実離れしてるし。でもそれは大上だって同じはずでしょう? だって俺たち同い年なんだから」