おいしい時間 しあわせのカタチ
佐希子はおもむろに根岸くんの手から車のキーを抜き取ると、
「わたし、車出してきます。根岸くんはここにいて」
「え、いいですよ。車は俺が」
「まあまあ」
腕を叩き、佐希子は駐車場に足を向けた。
(そりゃあ、わたしがいたら窮屈だものね)
頃合いを見計らって店の前に車を寄せると、そこにはすでに大上さんの姿はなく、首をすくめた根岸くんがひとり寒風にさらされていた。
帰り道、根岸くんはめずらしく口を閉ざしたまま、まんじりともせず座っていた。
なにか大事な話があったんだろうということはわかりやすすぎる態度のちがいから読み取れるものの、だったらなおさら安易に声をかけるわけにもいかず、佐希子はふたつの感情の間で揺れた。
そうこうしているうちに根岸くんのアパートの前に着いてしまい、佐希子はハンドルを譲るべく席を下りた。
「……送らなくても、いいすか」
「ええ? まだこんなに明るいのに? 平気よ、平気。じゃあまた明日ね。今日はありがとう」
「――佐希子さん」
踵を返しかけて、佐希子はふたたび根岸くんに向き直った。