おいしい時間 しあわせのカタチ

 食事にがめつく、味にうるさい根岸らしい。

 本当は大上自身も鍋にこびりついたルーをパンで拭って、それを夕飯にしようと思っていたのだが、これでは別なメニューを考えなければ。


「うわ、うめー!」


 二人揃って歓声を上げる。

 やはり佐希子さんの作るビーフシチューは絶品だ。洋食屋に転向してもいいぐらい。


「すこし、パンを焼こうか。かりかりしたほうが美味いだろ」

「おっ、いいな」


 口の端が黒くなるのも気にとめず、ふたりは童心に帰ったように腹から声を出して笑い合い、夢中になってパンを拭った。

 気の早い、春めいた日差しが降り注ぐ。

 まるで、ふたりの新たな友情を寿いでいるようだった。

 
 2*了

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