おいしい時間 しあわせのカタチ

 料理を運び、帰りがけに空いた皿を片して戻ると、おもむろに社長が言った。


「そういや佐希ちゃん、この前ここに来てた棚橋製作の子、まだここへ来るかい?」

「女の子ですか?」

「ああ」

「いいえ、見てませんけど。彼女がどうかしました?」

「あの子、会社やめたんだってさ」


 隣で皿を拭いていたゴンさんの手がにわかに止まる。


「社長、それほんとかい?」

「そうなんだよ大将。一体なにがあったんだかねぇ。この前いっしょに飲んだときは全然そんな素振りなかったのに。佐希ちゃん、なんか聞いてる? ……佐希ちゃん?」


 ――佳織さん。そう、結局そういう決断をしたのね。


 でも、嫌いじゃないわ、と佐希子は内心でふっと微笑んだ。


「なにか、どうしてもやりたいことができたんじゃありません? 仕事がどうこうって理由じゃあないと思います」 

「俺もそうは思うんだよ。だからこそっつうかなぁ……うちに来てる子がそれでえらい気落ちしちゃったみたいでさ、見てらんなくてよ」


 佐野くんのことだろう。

 そういえば佐野くんは結果的に振られてしまったのだ。

 そしてそれは、悪く取れば、いいようにだけ利用されて。

 てっきりうまくいくものと思っていたらしいゴンさんも、やりきれない、とばかりに目を伏せる。

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