おいしい時間 しあわせのカタチ

 ふむ。そう言われると、と佐希子は冷蔵庫に向かいながらけっこう真剣に思案する。


「おいおい、ビールかよ。悪かないけどさぁ、今さっきすんげぇ寒いって話をしたばっかじゃねぇか」


 お通しをふたりに出しながら、ふふ、と口元だけで笑いつつ佐希子は有無を言わさず栓を空ける。


「すごく美味しい地ビールなんですって。あら黒いわ」

「あら黒いわ、じゃないってもう。あいかわらず佐希ちゃんはよう……まあいいか」

「はいカンパーイ」


 便乗してコップを上げてきた他のお客ともコップを合わせて、まず一口。


「ふうん、けっこうガツンと来ますね。すこし苦いけど、でもおいしい。やっぱりビール、いい」

「うん、悪くないやな。でも空きっ腹に染みるー――っておいおい……」

「こら佐希子! おまえはまた!」


 すでに空になったコップを揺らし、上唇に白ひげをつけた佐希子は満足そうに笑う。

 ゴンさんは額に手をあてて、目も当てられんとばかりに、すいません、と詫びた。


「だってビールはちびちび飲むものじゃないでしょう」

「おまえはちびちび飲んでもいいんだよ」

「はあい」

「佐希子さん、これお願いします」

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