君のいる世界
10年前
夏休みのある日、あたしはおじいちゃんちの縁側で寝そべりながら写真集を見ていた。
まだ買っもらったばかりの写真集はいい匂がして、うっかり触ったら手を切りそうなくらいぴかぴかだった。
ぱたぱたと足を振りながら飽きもせず見ていたあたしの隣に、庭仕事を終えたおじいちゃんがやって来て座った。
「玲奈はその本がずい分好きみたいだな」
あたしはおじいちゃんを見ることなく返事をする。
「うん。好きだよ。大好き」
写真集は一人の女の人の日常や生活を映していて、なんとなくではあるものの、そこに写っているものに憧れる気持ちがあった。かわいらしい木のオーナメントや、ブリキの水差しといった物や、季節ごとに変わる庭にある花。何度も見ているのに、いつもどこかに新しい発見があっていつ見ても楽しかった。
「どれちょっとおじいちゃんにも見せてごらん」
近寄ってきたおじいちゃんの手が、写真集の縁にかかる。あっと思った時には赤紫の指の跡がついていて、シミになっていた。
「ひどいよ、おじいちゃん!! まだぴかぴかの写真集だったのに汚したりして」
あたしにわんわん言われたおじいちゃんは、淋しそうにでも申し訳なさそうな顔をした。