ひとみ
ひとみさんは、ボクの顔を見上げた。
「いつでも、駿平君は、優しいよね」
正直、自分を抑えているギリギリの状態であった。
「だから、ひとみさん、あなたは自分のことだけ考えてください。ボクのことはほっといて下さって結構ですから」
それが限界だった。
ボクは彼女の体を突き放した。
「ボクが笑っていられるうちに、行ってください」
そう言って、ボクは彼女に背を向けた。
背後で静かにドアが開く音が聞こえた。
そして、重々しい足音とともにドアは再び閉められた。
体中の緊張が解けていくのが自分でもわかった。
ボクはそのままベッドの上に体を預けた。
うつ伏せになり、枕を顔にあて、心の底から湧き上がる感情をぶつけた。
いいんだ、これで、いいんだ。
後悔なんかしていない。
いや、自分の素直な気持ちを彼女にぶつけるべきだった。
いや、そんなこと、しちゃいけないんだ。
彼女にとって、迷惑になるだけだから。
様々な感情がぶつかり合って、口から言葉にならない嗚咽となって溢れ出る。
それだけでは足りないのか、目からは涙となって湧き立って溢れる。
やり場のない感情は抑えが効かなかった。
苦しかった。
悲しかった。
悔しかった。
でも、現実はなにも変わらない。
それを受け入れなければならない。
わかってはいるけど、わかってはいるけど、どうにも出来ない自分自身の無力さが、さらにツラい思いに拍車をかけた。