ひとみ


周りの世界が白に包まれていく。

あぁ、眠りに落ちていく
熱があるんだから、寝た方がいいのだろう
おやすみ、ひとみさん………

その時、額に柔らかい温もりを感じた。
かろうじて、繋がっていた意識を呼び覚ます。
ボクはゆっくり目を開いた。

目の前に、ひとみさんの整った顔があった。
ボクの額に彼女の額をくっつけ、熱を計っているようだった。
ボクが目を開けたことに気付いたのだろうか、彼女は小さな声で囁いた。

「ごめん、起こしちゃったね。熱、まだあるみたいだから、ゆっくり休んでね。さぁ、目をつぶって」

ひとみさんの優しさに、ボクは恥ずかしさと嬉しさを感じながら、再びゆっくりと目を閉じた。
やがて睡魔がボクの体を包み込み始めた。

意識が薄れていく…………

その時、ボクは唇に柔らかい存在を感じた。
かろうじて残された意識を振り絞って、ボクは薄目を開けた。
そこには、両方の瞳を閉ざした、ひとみさんの美しい顔があった。

彼女はボクの唇に彼女の唇を重ねていた。

ほんの1秒くらいのことだろうけど、それはボクの全身に衝撃を与えた。
体全体が脱力するような感覚に襲われた。

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