wish

父親の影

文化祭が終わった。

いつもなら苦手だと感じるこの行事も、

今回はなぜか嫌じゃなかった。


それは、誠とまた話せるようになったからかもしれないし、

友香の歌を聴いたからかもしれない。


少しだけ軽くなった心に、昇の足取りも軽かった。


だが家に帰ると、しんと静まり返った部屋が昇の目に映る。

誰もいない、電気もついていないこの部屋はどこか、ひんやりとした空気をまとっていた。

ぴちゃん…
と水道から一雫、水が落ちた音がして、反射的にそちらに顔を向ける。


母は、まだ病院だ。

予定では、今日の夜に帰ってくるはずだ。


少しだけ、
昔の情景が頭を中をかすめたので、あまり考えないようにと頭を振った。

1人でここにいると、余計なことまで思い出してしまいそうで恐かった。


まだ病院にいるであろう母を迎えに行こうと思った昇は、
服は制服のまま、帰ったばかりの家を出た。




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