wish
「だから“そのうち”っていつなんだって聞いてるんだよ!」

「すみません、必ず、必ず返しますから!」


そんなやりとりがしばらく続いたが、男がとうとう諦めた。


「また来るからな」


捨て台詞を吐いて、帰っていくようだった。

ふと、このままでは鉢合わせてしまうことに気付き、慌てて死角へと移動する。

その間の動きは自分でも驚くほどに速かったと思う。

男が扉を閉めて帰っていったのをちゃんと確認してから、
昇は父がいる部屋に滑り込んだ。


「父さんっ!!」


父だけがいると思っていた部屋には母もいた。

力なくこちらを見た父の顔は一気に青くなった。

母は微動だにせず座り込んだままだ。

その目は少し赤くなっていた。


「昇、いつから…」


いつからいたのか聞きたいのだろう。


「ただいま、って、声かけたんだけど…」


言葉を濁すと、父は「そうか…」と顔をまた下に向けた。


< 159 / 218 >

この作品をシェア

pagetop