wish
「父さんは…」


父の話を切り出すときは、いつも少しだけ緊張する。

途中まで言って、また口を閉じた。

つばをごくりと飲み込んで先を続ける。


「父さんは、俺の目標だったから…

父さんがああなったとき、やっぱり少し恨んだ…」


どうせ死んでしまうのなら、なぜ夢なんか見るのだと。


母は何も言わずにこちらに耳を傾けていた。


「だから、これから先、俺は絶対に夢なんか見ないで現実を見て生きていこう、って思った」

「…そう」


「でも、
今は違うんだ」


昇はここまで言ってようやく母の顔を見た。

母は、じっとこちらを見たまま次の言葉を待っていた。


「俺も…
父さんみたいに、何か夢を追えるようにがんばるよ。

もう、適当になんて考えない」


頷いた母の目は、少しだけうるんでいた。

昇もなんだか泣きそうになったが、

「それだけ」

と言って足早に椅子から立ち上がった。



何かが変わった。


変われる。


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