wish
家に帰ると時間はまだ、6時を過ぎた頃。
母はまだ帰ってこないだろうと思い、
とりあえず自室に戻ろうとしたときに、
玄関の扉が開く音がした。
不審に思い、そちらに足を運ぶと、
まだ帰ってこないはずの母が帰ってきていた。
母は昇の姿を確認し
「ただいま」
と声をかける。
なんだか、その姿は以前よりも小さく弱々しく見えたが、昇も
「おかえり」
と返事をした。
「今日、仕事終わるの早いね」
「うん…ちょっと風邪ひいたみたいで、早めに帰してもらったのよ」
言いながら母は、けほっと咳をする。
「そういえば昇、そろそろ文化祭でしょう」
「え、あぁうん」
「昇のクラスは何するの?」
「喫茶店」
母は少し考えてから、
「お休みもらって母さんも行こうかな」
と言った。
「え、なんで」
慌てて昇が聞くと
「今まで昇の高校行ったことないし、
たまには行っておこうかなって思ってね」
少し楽しそうに母が言うから、昇ははぁっと息を落とした。
文化祭の日にちを教えると、
母は壁にかかったカレンダーにそのことを書き記す。
元気が出るなら、まあいいか、と昇はそんな母の姿を見ていた。