wish
「…戻ってきてね」
ふと出てきた言葉。
昇には聞こえただろうか。
でも振り向いてもくれなかったから、
聞こえてないかも。
昇が走り去ったあと、その方向をしばらく眺めていた。
気をとりなおして、友香は本来の目的であった教室へと向かう。
あんなに慌ててる昇、初めて見たな…
教室に入ってみると、恵利子を中心に準備は着々と進んでいた。
「あっ、友香!
笹木くん見なかった?
さっき先生に呼び出されたっきり戻ってこないのよ」
「んーん、見てないよ」
咄嗟に嘘をつき、友香も教室の準備を手伝う。
「あいつ、逃げたな…」
と、恵利子がぼそっと言うのが聞こえてきた。
恵利子に使われてたんだな、
と友香は瞬間的に思い、少し苦笑した。
「どうしたの、友香」
恵利子に問われて、なんでもない、と首を横に振る。
恵利子に言えないことがどんどん増えていくな、と友香は思った。
「ねぇ、恵利子…」
「ん、何?」
「…なんでもない。ちょっと呼んだだけ」
やっぱり、恵利子にも言えない。
ぎゅっと口を閉じて、友香は準備に手を動かした。