wish
屋上までは何も話さずに進んだ。
友香もこちらをあまり見ないから。
屋上についてみると、
そこにはいつものように人がいなかった。
友香が先に足を踏みいれ、そのままこちらに背中をむけて立ち止まる。
「…宮内?」
「お母さん、大丈夫だった?」
「あぁ…うん。ただの疲労だった」
「そっか」
そこで、ようやく友香がこちらを向いた。
顔は、やはり笑っていない。
無理に笑おうとした顔だ。
「昇は、大丈夫?」
「…俺?」
「うん」
「…あぁ」
安心したのか、友香は壁のほうに行き、そこに腰をおろした。
昇は、その場に立ったまま、友香の動きを目で追う。
「昇と初めて話したのここだったね」
つぶやくように友香が言うのを聞いて、
空に顔を仰いだ。
顔に太陽の光が差す。
夕方といっても、その光は少しまぶしい。
「ねぇ、私が前に昇に聞いたこと覚えてる?」
今度ははっきりとした友香の声が耳に届いた。
「…?」
本当に分からなかったから、
何も言わずに友香に視線を向けた。
「昇の…」
「何?」
「…家族の話」
話すようになってすぐに聞かれたが、
昇は話したくないと断ったことがある。
頭のなかで、その時のことを思い出していた。
「あのときは断られたけど、また聞いたらだめ?」
家族。
友香に話してしまっていいのだろうか。
ずっと自分1人の中に隠してきた過去。
なぜ知りたがる。
でも…