wish
嘘と本当
昇が声をかけたきり、誠からはなかなか返事は戻ってこなかった。
なんだろうかと、
誠のほうに視線をやるが、黙ったままだ。
もともと自分からはあまり話さないほうだったし、
以前話しているときにも沈黙はあった。
だが、この妙な空気は昇の気を滅入らせる。
不安も少し入り交じった。
「誠?」
バンド演奏の音は、
ますます大きくなったのではないかと昇は思った。
大きな音は、まるで話すことを遮るかのように鳴り響いている。
低い重低音のベースの音色が直に頭に響いて、くらくらした。
観客も、周りの人も、意識はステージにあり、昇と誠の存在はないみたいだ。
しかし、
もし今何も音がなかったら、もっと気まずい雰囲気が流れていただろうし、
誰も自分たちを気にしないこの空間だからこそ、誠が話し掛けてくれたのかもしれない。
誠は話さないし、こちらを見てもいない。
だが、このまま待っていたら、もしかしたら話してくれるかもしれない。
そう思い、しばらく待っていたが、その様子はまったくない。