夢が醒めなくて
1ヶ月後、由未お姉さんの二次試験が終わった。
デパートの外商さんが来る回数が増え、お母さんは由未お姉さんの嫁入り道具を揃えると同時に私にもイロイロ買って下さった。

淡いピンク色の真珠のネックレスはものすごく高いんだろうけど、お母さんも私も気に入ってしまい、何となく毎日つけるようになった。

真珠は一代限りとか、10年でくすむと言う話も聞くけれど、お手入れしてたら100年もつらしい。
実際、お母さんは、お祖母さんの黒真珠のネックレスを今も大事に使ってらした。
私も、いつか、我が子に、孫に譲れる日が来るのだろうか。

由未お姉さんのお嫁入りのお支度をするお母さんは本当に幸せそうで、夢見る瞳がまるで少女のように輝いて見えた。
ご自分のお嫁入りの時のことを思い出してらっしゃるのかしら。

「お母さんは、白無垢?色打ち掛け?ウェディングドレスも着たの?」
何となくそう尋ねたら、お母さんは柔らかい微笑みを浮かべた。

「私?私はね、してないの。お父さん、お仕事が大変な時で……うちの実家に反対されてたから、駆け落ち寸前。事実婚に近いかしら。」

え!?
ええっ!?

確かに、お父さんは成金成金と何度も聞いてるけど、お母さんはどう見ても苦労知らずのお嬢様だから、てっきり盛大なお式を挙げたんだと思ってた。
それこそ、成金らしい、派手な結婚式を。

「義人をみごもって、区役所に入籍に行く時に白いワンピースを着て、スーツ姿の要人(かなと)さんと、神社にお詣りしたの。2人だけの結婚式のつもりで。」

ふふっとお母さんは声に出して笑った。
「あの頃が一番幸せだったなあ。何も知らなくて。要人さんは私だけのものだった。……6月にね、すずらんの花をくれたのよ。株分けして、お庭にも植えたの。今年も咲くわね。」

返事に窮してると、お母さんは庭に視線をうつした。
「そろそろ芽が出る頃かしら。」

それ以上、私は何も聞けなかった。


夜、ABCの筆記体を教わり万年筆で練習しながら義人氏に聞いた。
「お父さんとお母さんって、恋愛結婚なんですよね?駆け落ち寸前の事実婚って言うてはりました。……今もお2人は仲良さそうに見えるんですけど……そうじゃないんですか?」

義人氏は苦笑した。
「仲はいいで。お母さんはあれですごくできたヒトやからな。」
「……お父さんは?」
そう言って、義人氏の表情を見たら、何となくわかる気がした。

「浮気されてるんですね。……それで、お母さん、その頃が一番幸せだったなんて悲しいことをおっしゃったんやわ。」

男って、ホント、最低。

どうして、駆け落ちまでしたヒトを悲しませるようなことするんだろう。
< 124 / 343 >

この作品をシェア

pagetop