夢が醒めなくて
「まあなあ。俺も詳しくは知らんけど、お母さんはお父さんを見捨てても拒絶もしてへんし、お父さんもお母さんのことは大事に想ってるんは確かなんやけどな。……過去は消えへんのやろな。」
過去?
「ほんとに過去でしょうか。今も……」
そう言いかけて、馬鹿馬鹿しくなって、やめた。
代わりに、ため息をついて呟いた。
「私は絶対、無理。許せない。」
そして、義人氏の行状を思い出して、笑顔でつけ加えた。
「お兄さんは、お母さんのように心の広いお嬢さんをもらわないと、あっという間に離婚ですね。」
義人氏は、ドッと脱力して机に突っ伏した。
「……俺、ほんまは一途やのに。」
どの口がそんなこと言うんだろう。
「へえ。知りませんでした。」
そう言ったら、義人氏はちょっとムキになって宣言した。
「そのうちわかるから!」
……でも、ほんとに義人氏が浮気しないなら……理想的かもしれない。
脳裏に浮かんだクォ・ヴァディスのペトロニウスが、義人氏の笑顔と重なった。
浮気しないなら、ね!
3月10日、由未お姉さんが大学に合格した。
翌日、旧宮家のご当主という仙人のようなおじいさんが仲人としてやって来られて、お父さんとお母さんと結納を決めた。
そして3月15日に、噂の天花寺(てんげいじ)家の恭匡(やすまさ)さんと由未お姉さんが挨拶と打ち合わせに来られた。
折しもその日はちょうど私の卒業式。
義人氏だけでなく、朝からお父さんとお母さんもわざわざ来てくださった。
ただ、お父さんは恭匡さんをお迎えするために、卒業式の途中で退座された。
……はずだったのだが、壇上に上がって卒業証書を授与されて、階段を降りていると、いつの間にかお父さんは戻っていらしていた。
隣に、いかにも知的な眼鏡の青年と、どこかお父さんに似た女性がいた。
噂の恭匡さんと由未お姉さんまで来てくださったのか!
……急に緊張してきた。
私はこのあと、答辞を読む。
やばい。
お腹が痛くなってきた。
うつむきかげんで席に戻ろうとして、ハンカチで涙を拭うお母さんと、同じく目元にハンカチをあてがった義人氏が視界に入った。
何も泣かなくても……。
驚いたけど、くすぐったい気持ちになり、頬が勝手に緩んだ。
おかげで、緊張もほぐれたみたい。
リラックスして、卒業生代表として答辞を読むことができた。
壇上からぐるりと見回すと、教師も、児童も、保護者も、みんな泣いていた。
……お父さんまで、ハンカチを目にあてていた!
卒業式って、こういうものなのか。
私だけが、引き締めても引き締めても、自然と口元が緩んだ。
過去?
「ほんとに過去でしょうか。今も……」
そう言いかけて、馬鹿馬鹿しくなって、やめた。
代わりに、ため息をついて呟いた。
「私は絶対、無理。許せない。」
そして、義人氏の行状を思い出して、笑顔でつけ加えた。
「お兄さんは、お母さんのように心の広いお嬢さんをもらわないと、あっという間に離婚ですね。」
義人氏は、ドッと脱力して机に突っ伏した。
「……俺、ほんまは一途やのに。」
どの口がそんなこと言うんだろう。
「へえ。知りませんでした。」
そう言ったら、義人氏はちょっとムキになって宣言した。
「そのうちわかるから!」
……でも、ほんとに義人氏が浮気しないなら……理想的かもしれない。
脳裏に浮かんだクォ・ヴァディスのペトロニウスが、義人氏の笑顔と重なった。
浮気しないなら、ね!
3月10日、由未お姉さんが大学に合格した。
翌日、旧宮家のご当主という仙人のようなおじいさんが仲人としてやって来られて、お父さんとお母さんと結納を決めた。
そして3月15日に、噂の天花寺(てんげいじ)家の恭匡(やすまさ)さんと由未お姉さんが挨拶と打ち合わせに来られた。
折しもその日はちょうど私の卒業式。
義人氏だけでなく、朝からお父さんとお母さんもわざわざ来てくださった。
ただ、お父さんは恭匡さんをお迎えするために、卒業式の途中で退座された。
……はずだったのだが、壇上に上がって卒業証書を授与されて、階段を降りていると、いつの間にかお父さんは戻っていらしていた。
隣に、いかにも知的な眼鏡の青年と、どこかお父さんに似た女性がいた。
噂の恭匡さんと由未お姉さんまで来てくださったのか!
……急に緊張してきた。
私はこのあと、答辞を読む。
やばい。
お腹が痛くなってきた。
うつむきかげんで席に戻ろうとして、ハンカチで涙を拭うお母さんと、同じく目元にハンカチをあてがった義人氏が視界に入った。
何も泣かなくても……。
驚いたけど、くすぐったい気持ちになり、頬が勝手に緩んだ。
おかげで、緊張もほぐれたみたい。
リラックスして、卒業生代表として答辞を読むことができた。
壇上からぐるりと見回すと、教師も、児童も、保護者も、みんな泣いていた。
……お父さんまで、ハンカチを目にあてていた!
卒業式って、こういうものなのか。
私だけが、引き締めても引き締めても、自然と口元が緩んだ。