夢が醒めなくて
そこで私の目が覚めた。

……何?今の。
ガタガタと身体が震えた。

妙に生々しい夢だった。
まるで、前世の記憶だったかのように……。

怖い。
気がつくと私は珍しく声をあげて泣いていた。

……独りで部屋にいるのが怖くて、泣きながら廊下に出た。
義人氏はまだ帰ってないようだ。
まだ由未お姉さんは見つからないのだろうか。
それとも、既に見つかったけれど……久しぶりに女性のもとで羽を伸ばしてるのだろうか。

「う……」
たまらず嗚咽が漏れた。
怖い……美幸ちゃん……義人氏もいない……

「希和ちゃん?どうしたの?泣いてるの?」
お母さんが私に気づいて寝室から出てきてくれたようだ。

「……怖い……夢……見て……」
言葉よりも涙のほうが、雄弁に語った。
ボロボロと盛大に泣く私を、お母さんは抱きしめてくれた。

「かわいそうに。そう。大丈夫よ。私と一緒に寝ましょう?」
「……邪魔じゃないですか?」
ぐしぐしと泣きじゃくってそう聞くと、お母さんは私の背中をさすった。

「もちろん。……隣に高いびきのお父さんがいるからうるさいかもだけど。いらっしゃい。」
お母さんは優しく私を寝室に招き入れた。

お父さんとお母さんは広い寝室に、少し大きめのベッドを2つ置いて寝てらした。
ベッドの間には小さなテーブルとフロアーライト。

私達は、お父さんを起こさないように、そっとお母さんのベッドに潜り込んだ。
お母さんは華奢で柔らかかった。
そっと寄り添うと、私に腕を回してくださった。
お餅かマシュマロに包まれてるような心地よさに、私はすっかり夢の恐怖を忘れた。

何となく、お母さんからはイイ香りがしていた。
草原の中の、百合のような、柑橘のような……甘すぎない心地いい香り。

……そう言えば、すずらんの香水を愛用してると言ってらしたっけ。
これが、その香りなのかな。
優しいし、出しゃばらないけど、存在感のある香り。
とても癒やされる……心の落ち着く香り。

すずらんの香りと、お父さんのいびきと、お母さんの柔らかい身体に包まれて、私は悪夢なんかすっかり忘れて、心地よい眠りについた。

むしろ幸せな夜になった。



朝、お父さんの驚いたようなつぶやきで目覚めた。
「……希和ちゃん?」

「あ~。おはようございます、お父さん。夕べ、怖い夢、見て……」
「ん~~~~。目覚まし鳴ってない~。何時?」
お母さんも目が覚めたようだ。

「いや。物音がしたから。義人じゃないか?」

お父さんの言葉に、お母さんと私はガバッと飛び起きた。
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