朱色の悪魔

“私”は幸せだったんだよ。

華月組に引き取られて、家族にしてもらえて、本当に嬉しかった。

だから、私のせいでもうあなたたちが傷つくのはやめて…。

顔を上げる。

だから、断ち切る。

「さようなら。華月組のみなさん」

背を向ける。門のところで余裕を取り戻したらしい研究者の元へ歩み出す。

「っ朱音!?」

弟くん…ううん。華月魁の声を無視する。

“私”はもう“朱音”ではないから。

「朱、やっと…やっと帰ってきてくれたね」

“私”は“実験体”の“コード01”。

朱色の悪魔の被検体の成功例、1。たった1人の完全なる成功例に戻る。

目の前にいるのが“私”を作り出した者。

朱色の悪魔を作り出した張本人だ。

研究者は歩み寄ってきた私を満足げに抱き寄せる。

体を触るのは12年振りに戻った実験体の変化を確かめるもの。

彼が私に求めるのは実験体としての私だ。
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