朱色の悪魔

華月に戻ると慌ただしくなっていて、あれだけ赤くなってた正面はとりあえず水浸しだった。

多分、施設の奴らがどうにかしたんだろう。

「魁様!」

「…平出、これ頼む」

「はい。神哉様たちは組長の部屋です」

「分かった」

俺を待っていたらしい平出にバイクを任せてすぐに玄関から上がる。

慌ただしく動いてる組員を避けながら組長の部屋にたどり着き、そこで待ってた奴が襖を開けた。

部屋の中の空気は最悪だった。ビリビリしてやがる。

留榎兄さんも戻ってきていて、久しぶりに兄弟全員が顔を揃えている。足りないのは、朱音の姿だけだ。

「魁、座れ」

親父の言葉に神哉兄貴の正面に向かう。襖が閉まる。

俺が座ると、また空気が張り詰めた。

「魁も見失ったんだな」

「見失うもなにも追い付けもしなかった」

「そうか…」

親父がため息をつく。そして机に乗せたのは朱音の服だった。

「窓から捨てられたらしい。その後は信号無視や路地に逃げ込まれて見失ったと報告があった」

「…逃げた先の検討はついてねぇ。しらみ潰しにしてはいるが…見つかるかどうか」

親父の言葉を繋いだのは神哉兄貴だ。

イライラを隠せないようにタバコを吸うペースが異様に早い。

思いため息と共に吐き出された煙が上っていって霧散した。
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