朱色の悪魔
「気になるかい?」
「それは、もちろん…」
「儂はずっとこんな場所にいて、時を数えることしかすることがなかった。ここを出てもね、ずっと時計の針が時を数えるのを見ていたんだ」
身に付いてしまったものなのだろう。
時なんか数えてもただむなしくなっていくだけなのに。
それでも数えずにいられなかったのは、自分が生きている実感がほしかったから…。
ご老人は牢の中でそんなむなしい時を数え続け、時が経つということを身に付けてしまった。
私が華月で身に付けてしまった暗殺術や復讐の誓いと同じように。
ご老人は笑う。その笑みは形だけでなんの感情も写さない。
牢のドアを開け、外に出る。
ご老人の前でかがみ、視線を合わせる。向かえ側にいるというのにこんな近くで視線を合わせたのは初めてだ。
「鍵は開けます。どうか、無事で」
「…お嬢さん、死ぬんじゃないよ。復讐なんか、なにも生まない」
「…」
分かってるという言葉は飲み込んだ。
確かになにも生まない。空しくなるだけかもしれない。
それでも不思議と生への執着は私にはない。
鍵を開ける。立ち上がり、ここから出るためのドアへ歩く。