朱色の悪魔

どうして?どうして、なんで…。

微研究者に赤を擦り付けるように微かに動く左手を動かす。

確かに赤は、研究者の手についている。その首にも、はっきりとついている。なのに、研究者は苦しむ様子もなく余裕な顔で私を見下ろす。

「っくく…。朱、どれだけやっても無駄だよ。“ただの血”をどれだけ浴びたって、人は死なないんだからねぇ」

ただの、血……??

どういうこと。ただ、血を浴びたくらいじゃ人は死なない。そんなこと分かってる。

でも、私は“ただの血”なんかじゃない。朱色の悪魔を潜めた、劇薬のような血。人を殺せる血だ。

なのに、どうして研究者は、そんな血な触れているのに生きていられる?

「まだ、気付かないの?朱…朱はもう、朱じゃないんだよ?」

「…」

研究者が笑みを浮かべ私の手に触れる。赤が、研究者の指先につく。

それを、研究者は口に含んで笑って見せた。

…なにも起こらない。
< 229 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop