朱色の悪魔

嘘だ。そんな、こんなこと…。

なんで、なんで今なの?ずっと苦しめ続けられて、ずっと普通の女の子に憧れて…。

最期くらい、言うこと聞いてよ。利用されてよ。

なんで、こんなタイミングで…。

「っあ゛ぐ………」

「朱、今どれだけ僕が傷付いてるか分かる?何十年もかけて、やぁっと出来た成功例なのに。その成功例を僕の手でダメにしちゃうことになるなんてさぁ?ねぇ、朱…いや、もう朱じゃないかぁ。はぁ、ほんとに最悪」

苦しい。喉に食い込んでくる指が、そこから延びた爪が喉を裂いて赤を滲ませる。

抵抗なんかする力はなくて、頭がぼおっとしてなにも考えられなくなっていく。

「やっぱり、ネズミは従順な無力でいなきゃ。また、同じになるなぁ。…とりあえず、不要になったネズミの後始末はちゃんとしなきゃねぇ?そうでしょ?だから、このままちゃんと逝かせてあげるからね?」

腕が、床に落ちる。視界が歪む。白に覆われていく。

ダメだ。まだ、死ねない。こいつを、連れて逝かなきゃ。じゃなきゃ、また、繰り返される。

“私”がまた、生まれてしまう。そんなの、嫌だ…。

「それじゃあね。いい夢を」

暗くなっていく視界。遠くなる世界。

抗うことをできないまま、暗闇に意識を手放した。
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