奪うなら心を全部受け止めて
・ばあちゃん、ぶっちゃける
「ちーちゃん、明日、お願いね?いつも通りよ〜」
「うん、解ってるよ、ばあちゃん。
あのさぁ…、俺、もう高校生だし、それに、男だし。
…そろそろ、そのちーちゃんっていうのは…」
「あら。ちーちゃんは、ちーちゃんよ?
いくつに成ってもね」
「…別にいいけどさ」
「千景…。なるべく、ゆっくり歩いてあげるのよ?おばあちゃんと千景じゃ、ストライドがかなり違うんだから」
「走ったりしないよ、大丈夫、解ってるよ。いつもゆっくり歩いてるよね?ばあちゃん」
「そうね。ちーちゃんいつも、ちゃ〜んと手を繋いで歩いてくれるから、おばあちゃんは幸せなのよね」
明日はじいちゃんの月命日。
ばあちゃんと毎月墓参りに行っている。
「徳蔵さん、また来ましたよ?元気にしてますか?」
「ばあちゃん、貸して?」
線香の束に火を付ける。いつもの白檀の香りが仄かな煙と供に立ち上る。
「はい。着いたよ」
「有難うね、ちーちゃん」
二人並んで手を合わせる。
「ちーちゃん、あのね」
「何?」
「徳蔵さんはここには居ないのよね…。
ほら、ここには居ませんて、そんな歌があるじゃない?
今頃、大好きな人とデートしてるかしらねぇ…」
「ばあちゃん?」
「ちーちゃん、ううん、千景。
おばあちゃんが千景の事、そう呼ばないのはね、…おばあちゃんのヤキモチからなのよ…」
「ばあちゃん…何言って…」
…ヤバイぞ、じいちゃん。
「ウフフ。大丈夫よ?
おじいちゃんに聞いて、千景はとっくに知ってるんでしょ?名前の事。でもね、千景は気にしないのよ?千景は千景でいい名前。
……もう遥か昔の事だもの…。
徳蔵さんには、一生忘れられなかった人だけどね…」