奪うなら心を全部受け止めて
「…昔の結婚は決められたら絶対だった…。今とは随分違ったのよ?
貴方達は好きな人と結婚出来る。自由だけど…良い時代って言ってしまっていいのかしらね…。
おばあちゃんからしたら、少し辛抱が足りないんじゃ無いかって思う人達も居るわね。辛抱っていうのもするもんじゃないっていうし。それもよく解らないわね。
昔はね、余程の事がない限り、縁談をお断りするなんて出来なかったの。
徳蔵さんと私は家同士が決めた結婚だった。そういう風に決めるのはよくあることだったのよ。結婚は家と家の繋がりだからってね。そこも今とは考え方が違うわね。
勝手に決められた縁談。だけどね、おばあちゃんは嬉しかったのよ?
徳蔵さんの事はね、憧れるほど好きな人だったから。嬉しくて婚儀が待ち遠しかったものよ…。
はしたないかも知れないけれど、会いたくて会いたくて、仕方なかったわ。
でもね…、徳蔵さんには思いをよせている大切な人が居たの」
「ばあちゃん…」
「ちーちゃん。…そうよ、…その人は千景さんていう人だった。おばあちゃんは会った事はなかったけれど、人づてにね、色白で物静かで、綺麗な人だって知ったの。
…おばあちゃんは、正反対。日焼けしてお転婆だったわ。
ちーちゃんが生まれた時、色白で可愛くてね。
千景って名付けるって、徳蔵さんが言うから…、好きにすればって、拗ねちゃった。フフフ。
もう結婚から50年以上も経ってたのにね…。やっぱり、やきもち妬いちゃったのよね。
千景さんという人はね、徳蔵さんの大事なところ…、誰も踏み込めない、ここに、そっと終われているのよね。別格なの。生涯敵わないわ」
ばあちゃんは胸に手を当てる。
「でもね、おばあちゃんはとっても幸せだった。徳蔵さんは私をとても大事に愛しんでくれたから。本当に幸せだった。
…徳蔵さんは一生、おばあちゃんと居てくれたもの。
徳蔵さんの気持ちを思えば、おばあちゃんは幸せ一杯で居ないと申し訳ないわ。そうでしょ?
千景さんには娘さんが居て、お孫さんも居るようよ?
残念ながら千景さんは、体があまり丈夫じゃなかったから、随分若い時にお亡くなりになったようだけど。
千景?…、貴方には思いもよらぬモノを背負わせて終ったかも知れないわね…。ごめんなさいね。
徳蔵さん亡くなって終ったし、今更どうする事も出来ないけど、おじいちゃんの我が儘を許してあげてくれる?」
「俺は大丈夫。女の子みたいな名前、小さい頃はちょっと嫌だったけど、お陰で印象深く覚えて貰えるし、何とも思ってないよ?
ばあちゃんが許してるなら、いいんじゃない?」
「有難う千景。もう、徳蔵さんも早く私をデートに誘いに来て欲しいわ」
「ばあちゃん…。まだだよ。じいちゃん、まだウロウロ色んな人とフラフラ浮気してんじゃないかなぁ…若い頃、随分色男だったんでしょ?」
「フフフ。そうよ?美男子。若い頃からずっと、亡くなるまでモテモテ。そんな人の奥さんで居られたなんて、おばあちゃん鼻高々よね?
千景、有難う。
おばあちゃんは、まだまだ元気で居るわよ」