奪うなら心を全部受け止めて


キッチンに一緒に並んだ。

「手、洗おう」

「うん」

蛇口のバーに手を触れ、水を出した。
洗っている私の手に、不意に先輩の手が重なった。
えっ…。
って言うか、後ろに居る…。
…え?気がつけば、私の顔のすぐ横、少し屈んだ先輩の顔があった。爽やかなグリーンの香りがする…。
ドキッ…ドキドキ…もう、煩いな、鎮まれ心臓。
……この香り…。先輩の香りだって知って終ったから、…きっとこれから同じ香りに反応して、知らない人にもときめいて振り返ってしまうだろう。

「さあ、洗えた」

「う、うん」

「ん?どうした?」

「な…なんでもない、です」

ずるい…ずるい。きっと、わざとだ。私が動揺してるの知ってて聞いてる。

「インスタントだからね?でもちょっと豆っぽいやつ。ドリップタイプ」

取り出したシンプルな白いマグカップを二つ並べ、封を切ってカップの上にのせた。

「佳織、そこの棚の小さいお皿出してくれる?
フォークは引き出しの中、見てくれる?」

食器棚にケーキ皿があった。ちゃんとケーキ皿もあるんだぁ。…凄いな。

「ん、どうした?解んないかぁ、別にどれでもいいぞ?」

「なんでもない、大丈夫です」

お皿に手を伸ばしたら、先輩の手が…。

「そ、これでいいよな」

「は、はい」

「ん?」

「なんでもないですっ」

チーズケーキを乗せ、フォークも乗せた。

「おまけあるんだ」

そう言って、も一つ乗せた。

「あっ」

「タルトも好きだろ?こっそり追加しといたんだ」

「うん、好き、大好き!」

「だろ?…好きなのはチーズケーキとタルトだけ?」

「え?なに…他には、えっと…」

「俺は?」

「え…」

「俺の事は?」

あ…。

「好き…、好きです」

「好きだけ?」

「え?……だけ?」

それ以上?

「……」

「…好き。じゃなくて…、大好きです」

答えが出るまで、ずぅっと見つめられていた。
フワッと抱きしめられた。

シュンシュンお湯が沸いていた。

「ハハ。良くできました。まる」
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