奪うなら心を全部受け止めて

・佳織20歳、優朔22歳

「……佳織、ごめん。親父が呼び出したそうだね。全然知らなかった。
知らなかったとはいえ、ごめん。この通りだ。
親父が話した事は、俺が先に…、とうの昔に話しておかなければいけない事だったんだ。
ごめん、話しておかなくて。…許してくれ本当にごめん」

佳織、どうするだろう…。こんな思いをさせて、それでも好きだの一緒にいたいだの言ったら虫がよすぎるか……そうだよな。

「優朔…。いいの…。その事は、私もお父様にお会いする事、連絡しなかったから優朔に。
ただ、私という人間との面会だと思っていたから。だから…」

そんな佳織を酷い話でいきなり傷つけた…。

「…親父より先に、能から連絡貰ったんだ。親父が佳織と会ったって、…そして、あの事を話したって。いきなり会った上に、辛い思いをさせて終った。佳織、俺は、酷い男なんだ…。こうなるまで、結婚相手が決まっている事、話さなかった…。話さずに好きだと言った。それに…」

「待って。…愛人、の事よね?」

「…ああ。すまない。…愛人なんて言葉、…言い方。つき合い始める時、何もかも話しておくべきだったんだ。いや、知ってもらった上で、告白すべきだった。…そしたら、佳織だって俺とつき合わずに済んだ…。言わずに告白はすべきじゃなかったんだ…。
佳織、…許してくれなんて言えない。俺は狡くて卑怯な最低の男なんだ。…解っていた事、言わなかったんだ。それからだって、言えばいいのに言えなかった。どんどん好きになる…佳織を失いたくなかったんだ。諦めて、忘れるなんて、出来なかったんだ。…すまない。ごめん、本当にごめん。
佳織の一番いい時を、俺は俺の我が儘な思いで縛ったんだ。すまない…ごめん、ごめんな…」

……もう、いい。何度も何度も、同じ言葉の繰り返しにしかならない。

「…優朔、顔を上げて?お願い、もうやめて。
謝って欲しくないの。…結婚の事、…愛人という話、ショックじゃない、大丈夫、なんて言えない。…辛いし、凄くショックだった、何がなんだか………知らなかった。…酷いよ。…。酷い。優朔は違う人と結婚するから、私の事は忘れて嫌いになるの?…お願い、教えて?」

「好きだよ、佳織。好きだ。嫌いになんてなるはずない。好きだ、大好きだ」

「…うん。私も優朔が好き。この気持ちはね、揺らがなかった。優朔のお父様に、早く別れて忘れた方がいいって言われたけど…、別れるなんて全然思わなかった。寧ろ、…選択するなら…私、優朔と愛人になる、そう決めたの。だって、立場は許されてるって…そういうことなんでしょ?だったら、優朔といられるのがそれしかないんだったらそうする。だから、今までの事、一人で背負い込まないで。言えなかったこと、もう、考えて悩まないで。もう過ぎてしまったことだから」

「佳織…。いいのか?本当にいいのか?佳織の人生、俺とでいいのか?後悔はしないのか?
卑怯な言い方だけど、…結婚は出来ない…、そんな関係でしか続けられない。それでもいいのか?」

「うん。優朔の事、好きでいられるなら、形はどうでもいい。ずっと好きでいていいのよね?好きって言っていいのよね?
気持ちを胸に押し込めなくていいんだよね?
忘れようとしなくていいんだよね?」

「佳織…。ああ……。佳織…好きだ。大好きだ。
辛い道を選択させてごめん」

まだ俺達は、この先、何があるかも解らない。
俺は…離れるべきなんじゃないのか…それはずっと葛藤してきたことだ。だけど、佳織…。

痛くて折れそうなくらい抱きしめられた。抱きしめ返した。
これが優朔の思い。私の思い。…二人で決めた生き方だ。

「あ、優朔…。…好き。大好き…」

離れて見つめ合いどちらからともなく唇を求めた。涙を指で拭われながら、何度も何度も唇を重ねた。

「……佳織…今夜、佳織の初めて、貰ってもいいか?」

真っ直ぐ見つめ、問いかける優朔に、コクンと頷いて胸に抱き着いた。

「…貰ってください」

その夜、優朔と初めてを交わした。
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