奪うなら心を全部受け止めて
「……佳織?…大丈夫か?…身体、辛くないか?」
「……大丈夫」
優朔の腕の中。しっかり抱かれていた。
「佳織…こうしてると離したくなくなるよ」
髪の毛を梳きながら頭を撫でられた。…恥ずかしくて、優朔の身体に顔を寄せた。
「佳織…。これも…前から決まっていた事だけど、…俺、留学しないといけないんだ。その後は多分、そのまま仕事を始めて、暫く帰って来れなくなる。いつになるとか、今ははっきり言えない」
「うん、…知ってる。聞いたよ?お父様から」
「うん、ごめんな…。何もかも…、俺からの話じゃなくて」
「ううん、大丈夫」
だって、私も大人とは名ばかりで、優朔だって、まだ学生。親が物事を優先的に決めてしまうのは仕方ない。特に優朔は。…抗うことができない。
「多分、四年か、…五年、もっとかもしれない、直ぐには帰って来れないと思う」
短く伝えてしまうと、長期になったとき不安が生まれる。
「うん、大丈夫」
「ずっと会えない」
「うん。…大丈夫」
「帰って来たら、いや、帰って来る時が、結婚式を挙げる時になる。…佳織」
「大丈夫、待ってるから。平気。
例え帰って来る日が結婚式を挙げる日でも、私は私の気持ちで優朔に会えるの待ってるから。大丈夫。会えなくても、なんの不安もない。優朔が帰って来るの待ってる…待ってるから。
絶対帰って来て?
帰って来ると思ったら、四年も五年も、それ以上になっても、待ってるのなんか平気だから。
元気に帰って来て顔を見せて。
それまでは連絡取ったりしない。私、そう決めたの」
「…佳織」
「優朔を信じて待ちたいの。待って少しでも強くなっておきたいの。信じているもの。大丈夫、平気だよ?」
「相変わらず、大丈夫、平気って…。佳織はいつもそう言う。…我慢する。本音は言わない」
「…だって、…」
「うん。…うん。解ってる。辛くなる言葉は俺も今は言いたくない…」
今はこれ以上、佳織の気持ちを悲しくさせたくない。離れて会えなくなって、不安で淋しい思いをするのは、口に出さなくてもお互い解っている。佳織の決心に答えないといけない。
「…優朔、…あのね、…あのね…。身体、大丈夫だから…、もう一度抱いて欲しい……駄目?」
もう会えなくなる…、だから、…優朔の事、沢山覚えていたいから。
「…佳織。大丈夫じゃないって言われても抱くつもりだった…ダメって言われても、何度もね」
佳織を丸ごと強く覚えていたい。
「優朔…有難う」
「…佳織、俺も…有難う。信じていてくれ。必ず佳織のところに帰って来る。どんなことがあっても変わらない。俺は佳織だけだ。このことはちゃんと覚えていてほしい、なにがあってもだ」
それからは、あっという間だった。
何日も経たない内に、優朔は留学してしまった。段取りはとうにできていたんだ。
私の首元には今、お守りのようにネックレスが揺れている。可愛らしいムーンストーンの粒がキラキラと揺れている。
“二十歳の誕生日おめでとう"というメッセージカードが残されていた。
…あの日、疲れて眠っている間に着けられていた。