それが伝え方なのです



時計を見ると、そろそろ家の門限で静くんとお別れしないといけない時間で。


このときが1番好きじゃない。静くんといっしょの時間が終わるっていうのが寂しい。


でも静くんは静くんでバイトの時間だし……我が儘は言えないよね。



「家まで送ってくれてありがとう」



こっそりとため息をこぼしたのを誤魔化して笑顔を作る。



「大学とバイトと頑張って。じゃあ、ね!」



名残惜しい気持ちを押し殺して繋いでいた手を離すと、瞬間ぎゅっと逆に掴まれて。


ビックリして顔をあげると静くんがゆったりと笑っていた。


やっぱり静くんは綺麗だなぁと見惚れていると伸ばされる手。


その手はわたしの頬をかすって髪を梳かす。スッと一房掬ってその指にわたしの髪を絡めた静くんは、ゆっくりと口づけを落とした。


ぽやぽやしながらその一連の動作を見ているとゆっくり離れていって。



「やよと、同じだよ」



甘い囁きを残して静くんはわたしに背中を向けて行ってしまった。





髪へのキスは『思慕』の意味


あなたを恋しいと思う気持ちは、わたしもあなたも変わらないのです






< 9 / 127 >

この作品をシェア

pagetop