足跡に惹かれて
君の隣
あれから、5年。

「奈乃、行くよ。」

「太一、部屋のストーブ消した?」

「やっべ!待って待って!」

私は専門学校を卒業して、東京で働き、太一は東京の大学四年生。

今は同棲している。


「寒いね。」

「寒いな。」

やっぱり、心地いい。

手を繋いで、隣を歩く。

昔は、後ろ姿しか見れなかったのに。

そんな頃が懐かしい。

「ねぇー、奈乃?」

そう言って、太一はぎゅっと手を強く握り直してきた。

これは、大事なことを言う時、何かを決心した時にする癖だ。

「なに?」

何気ないように、そう聞き返す。

これもいつものこと。

「俺が卒業したらさ、結婚しよう。」

そう言うと、真っ直ぐに見つめてきた。

また、あの頃と同じ。

心に浸透してきて、じんわりと広がった。

「はい...」

絞り出した声は、自分のものとは思えないほどか細くて、笑ってしまった。

すると、

「な、なんか変だった!?」

太一は心配そうにしている。

面白いから、少しこのままにしてみようかな。

「いーや?ふふふ。」

「はぁー!?なんだよ!」

そう言って、むくれる太一が、

可愛くて、可愛くて、愛おしくて。

「いや?好きだなーと思って。」

そう言うと、太一は顔を真っ赤にした。

「自分で言っときながら、奈乃、顔真っ赤。」

そう言われて、自分の頬が火照っていることに初めて気づいた。

「太一もね。」

そう言うと、太一はまた繋いでいた手をぎゅっとしてきた。

「俺も、大好きだよ。」

そう言って、手を引いてくれた。
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