Mr.ハードボイルド



結局、俺は毎晩『BAR マダムローズ』でグダグダになるまで飲んで、非常に寝覚めの悪い朝を毎日迎えていた。

こんな朝は、濃いめのモカでも飲むか。

俺は、モカの豆を細かく挽いて、サイフォンに火をかけた。
いつもなら、ドリップで簡単に済ませてしまうとこだが、今朝は二日酔いで頭も痛いし、サイフォンのノンビリとした抽出を眺めめながら、好物の出来上がりを待つのも悪くない。
それにしてもだ、独身の根無し草みたいな生活をしている俺が、たかだか相棒の休暇ってだけで、ここまで暇を持て余してしまうとは、思いもよらなかった。
まぁ、なんやかんや言っても、アイツのいる生活が当たり前みたいになってたんだろうな。
俺はサイフォンにかけたアルコールランプの火をおとし、出来上がったモカをカップに注いだ。

ふぅ~、イイ仕上がりだ
やっぱり朝の目覚めはコイツに限るね。

ついでにタバコに火を点け、思いっきり肺の中に紫煙を吸い込んだ。
頭がクラクラしやがるぜ。

さぁて、今日はなにしてすごそうかなぁ。

とりあえず、武蔵の様子でも見に、あの公園にでも行ってみるか。

俺はオフィス兼自宅をあとにして表に出た。
フラフラと通りを歩いていると、聞き覚えのある声が俺を呼び止めた。

「富井さん。おはよう」

振り返ると、満面の笑みの山内豆腐店の主人がいた。

「ご主人、腰の具合はどうですか?」

「あぁ、おかげさまで、調子いいよ」

人好きされる笑顔で彼は答えた。

「調子いいからって、無理しすぎて、また、奥さんや娘さんを心配させないでくださいよ」

「あぁ、そうだな。気を付けまさぁ。この前は本当、富井さんや、新名さんに色々世話になっちまったしね」
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