すきだから
香苗があの男と別れたと知ったのは、クラスの女達の会話からだった。

『雄太君、別れたらしーよ』

『ウソ―!だから堂々と別な女と一緒に登校してきたって事?』

『随分手が早いんだねぇ。って別れる前から目ぇつけてたとか?』

女子のその手の話は、盛り上がって知らない内に大きな声で辺りに聞こえてしまうから、嫌でも教室にいた千歳の耳に入ってくる。
いつもは煩いだたの噂話だが、今回の話だけは千歳にとってはいい話の何物でもなかった。

彼女・・・香苗を最初に見たのはこの学校に入って直ぐの事。
なんでもない、廊下を歩く彼女とすれ違う、ただそれだけの事だった。

けれど、こちらへ向かって歩いてくる香苗の姿が、千歳の目にはスローモーションとなって映った。
肩までの黒髪が歩くたびにさらりと揺れて、少し伏し目がちな瞳が何とも言えないほど艶めかしい。


俗に言う一目惚れ、というやつだった。

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