すきだから
それから適当な理由を見つけては隣のクラスへと向かう。

忘れ物をした、中学の頃の友達に会いに等々、どうでもいい事で隣のクラスに行っては、目で香苗を追う。

何回か通い詰めて、そして教科書を借りに行った時、ようやく香苗の教科書が自分の元へとやってきた。

彼女の教科書は綺麗ながらも、大事な所にはマーカーがちゃんと引いてあって、真っ直ぐな字でメモなんかも書いてある。

授業なんか全く頭に入らず、でもその教科書だけは授業が終わるまで穴が開くほど見入ってしまった。

彼女が使っている教科書を自分が今手にしている、それだけで何故か心が高鳴っていた。


これまでに何人かと付き合ってきたけれど、こんなに自分の気持ちがおかしくなるくらい、人を好きになるのは初めてだった。

自分でも信じられないくらいの感情だった。


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