すきだから
廊下を歩いていると、向こうから更に千歳の気分を悪くさせる人間が目に入った。

香苗の前の男、雄太だ。

千歳が香苗に告白した、という事は多分奴の耳にも入っているだろう。

今のアイツはどんな気持ちなのだろうか。

愚かでバカな奴だ、と心で思う。

あんなにいい女をみすみす自ずの手で放してしまったのだから。

そう考えると、自然と笑みが零れてしまう。
その愚かさに気付いた時、奴はどんな顔をするのだろう?


―――そう。

今まで香苗が悩んだ分、これからはお前が悩めばいい。
手放してしまったものは、もう二度と手に入らないのだと。

後になって後悔すればいいんだ。


その思いが、雄太とすれ違う時に言葉となって現れる。


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