平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
少し体の浮いた私を、元のように座らせながら貴雄様は厳しい目をする。
「貴女が以前、邸を密かに抜け出していた事も、貴女が安倍の一族の力を色濃く受け継いでいる事も知っている」
「私は、それを咎める気はないし、蔑みもしない。だが今は状況が違う!!」
秘密の事を言われて言葉に詰まる私に、一呼吸整えて貴雄様はもう一度口を開く。
「貴女は、桐壺の女御です」
「今後の貴女の行動を、私は諫める事が出来る」
ましてやお腹に子が宿っている。ますます危険な目に合わす事が出来ない、と厳しい顔で瞼を閉じる。
貴雄様の言う事は理解出来る、全て私の事を考えて言って下さっているのだ。
私は内大臣の義娘で、桐壺の女御という決して軽くはない身分。
だが、そんなものも儚いもので、浅はかな行動でお祖父様にも多大な迷惑をかけてしまう。
もちろん、世間の私に対する目も酷く冷たいものになる。
─────分かる、分かるのだが、私が一番近くに居るのだ。
「貴雄様っ」
悲痛な声を上げる私に、貴雄様は静かに首を横に振る。
「分かって下さい」
そう言って私の肩を叩く貴雄様に、私は項垂れる。
自分の何も出来ない立場がもどかしく、意志とは別に涙が溢れてくる。
「貴女が藤壺の女御の事で、心を痛めてくれる事を感謝します」
そう言って貴雄様は立ち上がり、声を張り上げ女房を呼ぶ。
「香久山」
直ぐに妻戸を開き現れた忍の下により、私を振り返る。
「私にはなんの力も無いけれど、貴女の分も私が自分の為に仕えてくれる人を救けたい」
そう言い残し、貴雄様は忍を伴い梅壺を出ていった。
「……だめ…」