平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



「内大臣様の頬は始終緩んでおられましたね。きっと姫宮様が大層お可愛いのですね」



そう言って、乳母に抱かれている赤子を覗き込む真子の顔も随分緩んでいる。



長月の終わりにこの邸を去ったはずの真子は、先日、この姫宮が生まれてようやく落ち着いてきた頃に、義母となった安芸の方と共に帰って来た。



はじめ、真子の姿を見た時は何かの間違いかと思ったが、全ては柊杞が仕組んだ事だった。



真子が去る前日の夜、真子はやって来た柊杞に胸の内を打ち明けた。



それに対し柊杞は、「女御様のお側に居たいのならば、成人した後、正式に女房としておいでなさい」と告げたのだった。



その提案に乗り、安芸の方にも事情を話し、密かに事を進めたのだと言う。



近衛中将は娘と瓜二つの姫を離したがらなかった様だが、安芸の方の口添えもあり渋々納得したそうだ。



そして急拵えで裳儀を済ませたらしい。



女房にする気は無かった事と、後見人であるのに祝いの品を贈れなかった事、隠していた事に私は当然腹を立てたが、何時も勝手をしているのは女御様です、と怒られてしまった。



それと、祝いの品は私名義で柊杞が贈ったらしい。



女房になるにあたって、一つだけ近衛中将夫妻から頼まれたのが、安芸の方の宿下がりと真子の宿下がりを合わせて欲しい、との事だった。



会えない事を除けば、宮仕えは良い勉強になる。安芸の方も近衛中将もそれも承知て、女房へと出したのだろう。



女房になるのなら、と私の中では早速あれやこれやと考えを出していた。



この生まれたばかりの姫宮か、もし生まれるのならその下の子か、成長したのちその子たちの子の乳母にでも…と思う私を、柊杞や天将たちは呆れて笑うだろう。



「念願の入内を果たし、帝の血を引く子ですからね。それに、まさか曾孫の顔を見れるとは思っていなかったのでしょう」




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