平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



「加えてこの様な可愛らしい顔立ちですから、嬉しさもひとしおなのでしょう」



優しい眼差しの柊杞は、何やら懐かしそうに姫宮を見やっている。私の事を思い出しているのだろう。



そんな柊杞に真子は疑問をぶつける。



「そう言えば、姫宮様はあまり女御様には似ておられませんよね。東宮様似なのですか?」



真子が言う通り、生まれた姫宮は私にはあまり似ていない。柔らかい面差しは貴雄様に似ているが、鼻筋などは私の母上に何処か似ている。



言うて見れば、私の面影も少しなりとある訳だが。雰囲気からみて大部分が貴雄様に持っていかれてしまった様だ。



「ええ、利宇古宇の君はまだ判らないかもしれないけれど、とても似ていらっしゃいます」



貴雄様の顔を思い出し、柊杞はくすくすと笑う。



それにつられて、側にいた少将の君も口元をおさえる。



その雰囲気に私は頬を赤らめて、肩をすくめる。



貴雄様からは姫宮が生まれてからというもの毎日の様に、早く戻って来るように、と行った文が届けられていた。



生まれたばかりの姫宮の顔を早く見たいと言う事なのだろうが、女房たちは「父上様は本当に母上様がお好きなのですねぇ」と姫宮に話し掛けながら私をからかう様な目で見るのだった。



恥ずかしい……それでも、三月も離れていたというのに、こうして優しく接してくださる事が嬉しい。



貴雄様はお祖父様も口説いているだろうから、きっと遅くても師走前には参内となるだろう。



そう考えると、まだ入内して一年も経っていない事に気付く。



時が経つのは意外と遅いものだ。



< 203 / 241 >

この作品をシェア

pagetop