平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
いつもは、なんとか塀を越えられるが、今日は夜の身軽な出で立ちではない為、太裳にでも抱えてもらおう。
流石に正面から堂々と、門を通れるとは思えない。
「さて、そろそろ行こうかしら」
市女笠を手に持ち、いざ部屋を出ようとすると、一人の女房が部屋に入って来た。
「姫様、右大弁様の姫君が参られました───姫様?そのお姿は、いかがなされましたか?」
「よもや、外に出ようなど、軽々しい事をお考えではないですわよね?」
ニッコリと笑顔を崩さずに、にじり寄ってくるこの女房は、まるで幼い柊杞のようだ。
手に持っていた市女笠を、申し訳程度に自分の背後に隠す。
「…姫様、今回だけは見なかった事にいたします。ですが、次は乳母様に報告いたしますからね。」
ため息をつく女房は、今回だけは見逃してくれるらしい。
「ありがとう、弁。…ところで、右大弁様の姫君?」
右大弁様とはお母様のお兄様の事だ。つまり、その姫君とは従姉妹になる。
「はい、四の君様にございます。」
「四の君様が?急にどうされたのかしら?」
廂の火鉢の側に座り手をかざしていたら、直ぐに四の君がやってきた。
「前振れも無くごめんなさい。どうしても、貴女と話がしたくなったの。」
「四の君様、どうぞお気になさらずに。ワタクシも会えて、嬉しゅうございます。」
これではもう、外に出る事はかなわないだろう。
玄武と太裳に目配せをすると、「まったく、間が悪い事」と太裳がぼやき、玄武はとても嬉しそうに頷いた。