我那覇くんの恋と青春物語~桜沢紗希編~
以前に指示した道とは違い、今日はなるべく車通りの少ない道を選んでいるようだった。


「電話・・・かかってこないの?」


「・・・はい」


「そっか・・・まあ、無理もないか」


あの日の別れ際のさくらさんの表情を思い出す。

涙目なのに精一杯の笑顔を作り、目の前から去っていった。



両手の拳に力が入る。



さくらさんにあんな表情をさせてしまった自分が、たまらなく情けなかった。


「お父さん、厳しい人だからなあ・・・私も小さい頃は、よく怒られたっけ」



何かを思い出して優しく笑う、その横顔がさくらさんと重なって見える。

当たり前のことだが、二人はやはり姉妹なのだと実感した。


「そうなんですか。あの・・・どうして、俺なんかに会いにきたんですか?」


「あっ、別に用事があるわけじゃないんだけど、ちょっと気になったから」


「俺のことが・・・ですか?」


「まあ、あなたのことというよりは、あなたと紗希、二人のことがね・・・私にも責任がないことも無いわけだし、一所懸命なあなたたちを見てたら、なんとか応援してあげられないかなって」


信号が変わり、止まっていた車は右へと曲がった。

家の方向に背を向けたが、姫希さんは何事もないように運転を続ける。

その表情は知っていてこの道を選んだようで、姫希さんに道はこのまま任せることにした。
< 35 / 46 >

この作品をシェア

pagetop