ロールキャベツは好きですか?

声だけでわかる。向井からだった。
一応昔のよしみで電話帳に連絡先は登録しているが、お互いが連絡を取り合うことなど滅多にない。

「……どうした?」

それだけに、何かあったのだという嫌な予感は駆け巡る。

『ちょっと……気になることがあって』

どこか息を潜めたような向井の声に、俺は眉を寄せる。

「……周りに誰かいるのか?」

『酔いつぶれかけの旦那なら……』

つまり近くに、双山部長が酒飲んで寝っ転がっているということか。

「……何があった?」

声が警戒心MAXだ。

『……今日ね、双山が珍しくベロンベロンになって帰ってきたんだけど……』

「うん……」

『今、ふと鞄の中、目に入っちゃって……見つけちゃったんだけど』

「……何を?」

電話の向こうでツバを飲み込む気配がして、俺も息を止めてスマホに耳を傾けた。

『……渡邊主任の辞表』

「はぁ?」

辞表!?

辞表って仕事辞めるときに出すあれだよな?

「祈梨さん、仕事辞めるのか!?何で?」

『それ聞きたくて電話したんだけど……』

……そんな話……聞いてない。

俺は目の前が真っ白になった。
かろうじて柱に手をやり、眩暈にふらつく身体を支える。

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