ロールキャベツは好きですか?

鍋を見つめた。

祈梨さんにあげようと思っていたロールキャベツの緑がぼんやりと目に入る。

ロールキャベツが好きだと言った祈梨さん。
俺のことをロールキャベツみたいだ、と笑った祈梨さん。
そして、俺と付き合えてよかったと言った祈梨さん。

ねぇ、祈梨さんにはかなり心を開いてもらえてると思ってた。

どうしてそんなに大事な決断を、俺に教えてくれなかったの?

『……田島の彼女って渡邊主任?』

唐突な向井の問いに戸惑った。
どうしてわかった……?

『今、渡邊主任のこと、祈梨さんって呼んだよね?田島の大切な人って主任なんでしょ?何か知ってるんじゃないの?』

俺は少し迷ったが、向井への信頼に託し、俺は素直に白状した。

「祈梨さんと付き合ってる。だけど、辞表については本当に何にも聞いてない」

向井はこの手の話を聞いて、囃し立てたり、質問攻めにはしたりしない。
しかも、他の女子に秘密バラシをするようなやつじゃない。

『そっか。田島でも知らないか』

ほら。現に、俺らの関係に口酸っぱくはない。

『でも何のために辞めるんだろう?主任いなくなれば、うちの会社、将来危ないよね』

祈梨さんはそれはそれは、我が社のエースであり、普通に主任だけで留まる人ではない。

本人だって出世欲あるし、働きたいという意志は誰にも負けないはずだ。

そんな主任がいなくなれば、今よりも業績悪化になりかねない。

『まさか……ヘッドハンティング?』

「それ来てたら多分会社で噂になってるよ」

『そうよね……』

思い当たる節といえば……双山部長が来てから、だ。

かつてセフレだったという部長と祈梨さん。

祈梨さんはうりの沈着冷静さを失っていた。

あの二人にまだ何かあった?
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