パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 目の前の公園をぐるりと囲むように桜の木がありますから、甘くて爽やかな風が吹くこと事態は別段おかしなことではありません。

 ですが、その風が吹き抜けたところから、何やら景色が歪んで見えるようになったのです。スチール製のゴミ置き場が、ぐにゃぐにゃと波打って見えます。

 おかしいですね。また目に涙が溜まってしまったのでしょうか。擦ろうにも私の両手は塞がっていますから、何度も瞬きをしてみました。それでも歪みは治りません。それどころか、だんだんと景色が暗転していくのです。あら、どうしたのでしょう、私。

 更に体が前方に引っ張られるような感覚がしたので、ぐっと足を踏ん張りました。立ちくらみか貧血かもしれません。私はしばらく目を閉じたままじっとしていたのですが……足元の感覚がふっと無くなり、体が前のめりに倒れていきました。

 ゴミ袋を両手に持っている私は、このままだとスチール製のゴミ集積所に顔から突っ込むことになります。鼻血程度で済めばいいのですが、貴臣さんが私だと分からないくらいに顔が歪んでしまったらどうしましょう。

 そんな恐ろしい危機感を覚えた瞬間、ぽふっと柔らかな感触が顔や体に伝わってきました。どうやら誰かに支えてもらえたようです。

 私は助けてくださった方にお礼をしようと、目を開けて顔を上げました。

 私を助けてくださったのは、サラサラ金髪碧眼の王子様風美少年でした。

 ……おや?

 私の目はまたおかしなことになっているのでしょうか。何度か瞬きを繰り返し、目を万全の状態にします。そして、もう一度顔を上げて助けてくださった方の顔を確認しました。

 私を助けてくださったのは、サラサラ金髪碧眼の王子様風美少年でした。

 ……間違いありません。私を助けてくださったのは、サラサラ金髪碧眼の王子様風美少年です。それはもう文句のつけようのない、硝子玉のように綺麗な瞳とご尊顔の持ち主でした。



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