パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「だからあれは魔王の手下の魔物だと言っているだろう!」

「いえ、そんな話は聞いていませんよ。言いもしないことで怒るなんて、貴方も馬鹿なのですか」

「自らを馬鹿と認めている者にそのようなことを言われる筋合いはない!」

「なんでもいいですけれど、狼さんが去っていきますよ」

「なにっ?」

 今さっき私たちの様子を見に来た狼の魔物は、ガシャガシャ音を鳴らしながら元の場所へ走って戻っていきます。

「まずい、仲間を呼びに行ったようだぞ、早くなんとかしろ勇者!」

「もう、ですから、私の名前は勇者ではなく九条椿姫なのですよ。何度言ったら分かるのですか。大概貴方もば……」

「煩い、早くここから出せええええええ!」

 なんて言い合いをしているうちに、先程の狼さんたちが大勢で押し寄せてきました。

「本当だ、なんだこの人間、何者だ!」

「ただの村人じゃないのか!」

 狼さんたちが鎧を煩く鳴らしながら慌てています。どうやらこの美少年が誰なのか分からずにに捕らえていたようですね。着ているお洋服はとても良い生地で出来ていますので、どう見てもただの村人には見えませんが……なんだか皆さん残念な方ばかりです。

 そんな風に騒がしい中、先程まで震えていたはずの金髪碧眼王子様風美少年が不敵な笑みを漏らしました。

「ふん、愚か者め。今頃気付いたのか!」

 美少年はわははは、と高笑いました。

「我こそはガルドゥラ国王が嫡子、アルヴィン・オージェ・ナント・ヘイディス・コマッタンネ・オー・マイ・ガルドゥラだ!」

「な、なんだとっ!」

「ガルドゥラの王子だと!」

「まさか城に入り込んで魔王様の寝首をかくつもりか!」

「大変だあっ!」

 狼さんたちがざわめいています。

 おやおや、王子様風だとは思っていましたが、本当に王子様でしたか。

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