パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 それにしても、先程まで私にしがみついて震えていたとは思えないほど踏ん反り返っていますね。何故ですか。王子だから弱みは見せられないとか、そういうことでしょうか。

「さあ勇者よ、今こそ反撃の狼煙を上げるとき! 一気に攻めに転じようぞ!」

 偉そうに美少年──アルヴィン・おー……ええと、なんでしたっけ。アルヴィン……アルヴィン王子なんとヘタレで困ったねおーまいがー様が私に命令を下します。ちょっと名前を間違えている気がしますが、そんな長ったらしい名前私には覚えられませんので、これでいいでしょう。

「くそ、そんなことをさせるものか!」

「魔王様! 魔王様にお知らせしろ!」

 狼さんは慌てながらも魔王様を呼びに行ってしまいました。

 騒がしかった牢屋前が一気に静かになりました。

 チラリとアルヴィン王子なんとヘタレで困ったね様を見れば、綺麗なご尊顔を真っ青にしてまた震えていました。

「まずい、魔王を呼びに行かれてしまった!」

「そうですねぇ」

 無駄に踏ん反り返ったせいですね。

「おい勇者、早く脱出するぞ!」

「ですから、私は普通の主婦ですから無理ですよ」

「だって魔王が来るんだぞ! 早く逃げないとだろう!」

「この状況を招いたのはヘタレで困ったね王子のせいではありませんか。何故あんな下手な挑発をしたのですか。馬鹿ですか」

「なっ、ぶ、無礼者! 俺の名前はアルヴィン・オージェ・ナント・ヘイディス……!」

「記憶力が良くないので覚えられません」

「この馬鹿がああ!」

「貴方もですからね」

 私たちが意味のない言い争いをしている間にも、刻々と魔王は迫ってきているようです。

 困りましたね、一体どうしたらいいでしょうか。



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