知らない貴方と、蜜月旅行
「なにしてるの、紫月!早く入ってきなさいよー!」


リビングのドアから、ひょっこり顔を出して、少し声がルンルンしてるお母さん。お父さんの声は、まだ聞いていない。


「はじめまして。突然すみません、お邪魔します。順序がバラバラになってしまい、申し訳ありません。蒼井吏仁と申します」
「あら、素敵な名前!紫月、あんた蒼井紫月になったの!」
「え?あー、うん。そうだね」
「あぁん、そう!あぁ、嬉しいわ。ね、お父さん!」


お母さん…はしゃぎすぎだってば…。私まだ、お父さんの声聞いてないよ…。でもお母さんに言われて、改めて実感する。私、蒼井紫月になったんだ…。


「はじめまして、紫月の父です。吏仁くん、だったか。きみ、騙されてないかい?」
「は?お父さん、なに言ってるの…?」


やっと、お父さんの声が聞けた!と、思ったら、トンチンカンな発言ときたもんだ。思わず顔を顰めてしまう。


「騙されてる…とは?」
「うん、紫月はね親の私が言うのもなんだけど、顔はいい方だと思うんだ。でも性格がねぇ…。女の子らしくないし。結婚するとは聞いてたけど、どうせヘンチクリンな男だと思っていたら、こんな立派な男性が来たからビックリしちゃってね」


お父さん…ひどいっ。喋らないと思ってたら、ヘンチクリンじゃなかった吏仁に、ただ言葉を失ってただけだったなんて!


「やだ、それもそうね…。紫月がこんなイケメン連れてくることがおかしいわよね。あら、でももう籍も入れちゃったんでしょ?大丈夫かしら…」
「……お母さんまで!」


なに、なによこの親!早く結婚相手が見たいって言うから、連れてきたと思えば、よってたかって不信の目!私に対してだけども!


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