知らない貴方と、蜜月旅行
「さっきまで吏仁のことで頭がいっぱいだったのに、ちょっとしたことで亮太が出てくるの……」
「陽悟の言った〝ワケあり〟発言か」
「ごめんね、今私の心、グチャグチャだ…」


いろんなことで頭がいっぱいになってる…。亮太のことも、吏仁のことも。やっぱり私って最低な女だ。


「紫月」
「ん…」
「このまま抱きしめてるから、全部言えよ」
「言うって…なに、を…?」
「心ん中、グチャグチャなんだろ?一回リセットだ。だから言え」
「……言えないよ」


言ったからって、べつにリセットされるわけでもないのに。無理だよ、そんなこと。って、思っていても吏仁は、とてつもなく恐ろしい人。


突然、私を抱きしめてた腕が緩んで、私は吏仁に距離を取られた。吏仁の顔は真剣そのもので、なにか不吉な予感さえした。


「……探し出す」
「え…?なに…?」
「お前の元彼探し出して、リセットさせてやるよ」
「え、なに言ってるの吏仁っ!そんなの無理に決まって、」
「探偵雇えば一発だろうが」
「いや、でも!」
「ほら、親友待ってんぞ。早く行けよ」


そう言うと強引にドアの向こうへ追い出された。そして、バタンと閉まる扉。何度もノックして戻ろうと思ったけど、それがなかなかできないでいた。


だから渋々、久未の席へと戻ったんだ。久未はすごく心配していて、探偵を雇うという話も久未には話した。久未にはまた〝バカ!〟と言われたけど、本当に私はバカなのかもしれない。


こんな話をしている間に、吏仁が休憩室で頭を抱えてることも、近くにあったゴミ箱を思い切り蹴り上げてることも、私も…誰も知らなかったんだ。


吏仁、ごめんね…。私の心が弱いせいで、本当にごめんなさい…。この数日間、吏仁にはたくさんのことしてもらってるのに、私は吏仁になにもしてあげられてないね…。


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