知らない貴方と、蜜月旅行
千円札一枚じゃなくて、結婚式の費用全額返してほしかったよ…。


あーぁ、胸の上痛いなぁ…。息は出来るけど、ジンジンと痛みがあるんだよなぁ…。それにしても、まさか亮太に殴られるなんて思ってもいなかった…。


諦めてくれた安心感と、怖かった恐怖感。一度止まった涙が、またジワジワと溢れてきた。吏仁の声が聞きたい……。


そう思ったら、いても立ってもいられず、寝転んだまま吏仁の名前を出し画面をタップした。


「紫月、」


ずっと携帯を持って待っててくれたのかな。ワンコールも鳴らないうちに、吏仁の声が聞こえて、今度はボロボロ涙が零れ落ちた。


「おまっ、泣いてんのか…?」
「り、ひとっ、会いたいっ、今すぐに会いたいの、」
「あぁ、今すぐ行くぞ。場所は分かるか?」
「…パチンコ屋さんから、近い、喫茶店、」
「ん、分かった。とりあえず電話繋げとくな」
「うんっ、」


早く会いたい、早く早く会いたい…。その思いだけが募っていく。吏仁は車をどこかに置いてきたのか、私の耳には吏仁の短い息が聞こえた。


「っ、これか」


そう聞こえたと同時にドアを開ける音。開けた時に鳴る鈴の音。それが左の耳からも、携帯からも聞こえてきて、やっと会えると確信した。


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