知らない貴方と、蜜月旅行
「いらっしゃいませ、」
「あー、お姉さんちょっとごめん。…紫月、席どこだ」
『奥の席』
「ん、分かった。お姉さん、悪いけど奥の席に行っていい?」
「え、えぇ、どうぞ。ご案内致しますか?」
「いや、いいや。ありがとう」


店員さんとの会話も聞き取れ、吏仁に会える!と思い、ゆっくりと起き上がった。寝転んだままだと、なにかされたと思われちゃいそうで。


「紫月っ!」
「…吏仁……っ、」


やっと会えた…吏仁に、やっと…。嬉しくてまた涙が溢れる私に吏仁は、ギュと抱きしめてくれた。だけど、ビックリするくらい胸の上に激痛が走り、思わず顔を歪めた。


「紫月…?どうした?」
「…なにが?吏仁に会えて、嬉しいんだよ」


この人がなにも気付かないわけがない。ただ今知られてしまうわけにはいかないんだ。もう亮太とは終わったんだ。このことがバレて、吏仁が万が一怒ってしまったら…と思うと、やっぱり今は知られたくないんだよ…。


「お前、なんか変」
「そう、かな…?」
「……俺に隠し事できると思ってんのか?」
「………」


できないですよ…。分かってますよ…。だけど、今は言いたくないんですってば!だけど、事態は違うほうへと進んでいくんだ。


「お前が泣いてた理由って、俺と別れるためなわけ?」
「えっ?なに言って、」
「元彼と戻ることにでもなって、俺に別れてほしくて、会いたいなんて言ったんだろ」


違う、違うのに…。亮太とちゃんとお別れして、吏仁のことは好きだとやっと確信できたのに…。どうして、そんなこと言うの…?


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