知らない貴方と、蜜月旅行
「吏仁、」
「とりあえず帰る。話は帰ってからだ」
「…っ、」


腕をグイッと引っ張られ、立ち上がると同時に痛む場所。やっぱり顔が歪んでしまう。ただ、この時は吏仁に見られることがなく、少しだけホッとした。


亮太が置いていった千円札でお会計をして、吏仁に手を握られ喫茶店を出る。そして、車がとめてある場所までは、お互い話すことなく無言で歩き続けた。


「乗れよ」
「………」


吏仁の機嫌が悪くて、どうしようもなく怖い。どっちに転ぶか分からないって言ってた時の彼とは、別人みたいでイライラしているのが分かった。そして私がゆっくり車に乗り込むと、車を発進し、無言で一時間痛みと雰囲気に耐え続けた。


こんなことになるのなら、言えば良かったのかな。吏仁が気付いた時点で、正直に話していれば良かったのかな。


「俺、用事あるから先帰ってろ」


マンションの前に着くと、吏仁は用事があるだなんて言う。それこそ嘘っぽい。でも、一度離れたほうがいいのかもと、私は無言で車を降りた。私を下ろした車は、すぐに発進すると、あっという間に見えなくなってしまった。


「……病院、行こうかな」


やっぱり痛む胸の上。このまま家に戻ったって、ただボーッとするだけに決まってる。それなら、吏仁がいない今、病院に行くのがベストだと思った。


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